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自立への道また一歩
〈報告したくて、またメールしました〉。2年半ぶりに、大阪府寝屋川市の溝尾圭子さん(42)からメールが届いているのを見つけ、「おっ」とうれしくなりました。今回も、娘さん(18)のお話です。対人関係が苦手な「高機能自閉症」で、前のお便りのころは美術系の高校に入学したばかりでしたが、この秋、専門学校に合格されたそうです。
高校生活、頑張ったのですね。確か、通学は電車で片道1時間半、と記憶していますが――。
〈遅刻しないよう朝早く起きて用意し、宿題を出さなかったり、テストで赤点を取ったりしたら、進級できないのを理解しているので、夜遅くまで勉強に励んでいました(それでも遅刻したり、赤点ギリギリだったりしたことはあります)。疲れ切って電車で寝てしまったことも〉
小さいころは思い通りいかないとパニックになり、「この子とは一生会話できない」と思ったこともあるぐらいで、溝尾さんは、周囲との関係が心配でした。
〈でも、先生がクラスメートに娘のことをきちんと話してくれて理解者が増え、行事など、いつもと違う行動をするときは、やり方を教えてくれるなど、自然にサポートしてもらいました。迷惑をかけることも多かったと思いますが、突き放すことなく導いていただきました。「感謝」という言葉に尽きます〉
そして、3年になった娘さんが進路に選んだのは、デザインの専門学校でした。
〈夏休みに、一緒に学校見学に行きました。先生に話を聞き、障害のことも正直に話しました。「大変かもしれないけど、サポートする」と心強い言葉をいただき、学生さんたちも感じが良く、ここなら頑張れるかもしれないとの思いがわきました〉
面接と適性検査があり、先月、合格通知が届きました。
〈娘は喜怒哀楽の表現が弱いので、「あっそう」って感じでしたが、封筒の中身に興味津々だったので、うれしかったのでしょう。興味があることが勉強できるので、「頑張る」と言っております〉
短い言葉が、何とも心強く響きます。溝尾さんは、ご自身の決意も書いていました。
〈私も悩み、考えながらサポートしていきたいです。就職も厳しい時代なので一筋縄ではいかないと覚悟はしていますが、技術を生かして、ゆくゆくは自立できるように〉
最初の便りを紹介したのは、私が裁判担当を命じられていったん日曜便を離れる直前でした。この間、娘さんが頑張ったぐらい、私も成長できただろうかと思い返すと、キャップに叱られた情けない場面ばかりが浮かびます。溝尾さん、再びのお便りに励まされました。私も「頑張る」の思いです。(増田弘輔)
(2012年10月28日 読売新聞)
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