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読み書きはできないと診断された自閉症児が、未来のノーベル賞候補と言われるようになった理由
[2014/02/27]
『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』(永峯 涼:訳/KADOKAWA 角川書店)
アインシュタインやベートーヴェン、ピカソなど、天才的な才能を持ちながら、幼い頃に発達障害だったと言われている偉人は少なくない。現在、アメリカのインディアナ州に暮らす少年、ジェイコブ・バーネットくん(以下ジェイク)も、そんな天才児の1人だ。
1998年にアメリカのインディアナ州に生まれたジェイクは、2歳の時にアスペルガー症候群と診断される。その症状は、大人になっても読み書きさえもできるようにはならないと言われたほど。しかし、そんな彼が障害を乗り越えて、10歳にしてインディアナ大学・パデュー大学インディアナポリス校に入学。現在は大学院で量子物理学の研究を行っているという。さらには、未来のノーベル賞候補とまで言われているのだ。
こう聞くと、凡人とはかけ離れた、特別な才能に恵まれた子のサクセスストーリーと思ってしまうかもしれないが、母クリスティンさんが書いた『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』(永峯 涼:訳/KADOKAWA 角川書店)は、それに加えて、子育てにおいて大切なことにも気づかせてくれる。
母親のクリスティンさんは、自宅で保育所を開設している。彼女は保育所の子ども達に、好きな事があれば、そこに飛び込むように促してきた。「子ども達は機会と手段さえあれば、こうした才能の芽が驚くほど伸びていく」のだという。
その経験から、彼女がジェイクを育てる上でも大切にしたことは「子どもの関心や愛着を尊重して生かし、伸ばして行く」というやり方。それまでの自閉症児の教育では、最低限の社会的生活を送れるようになるための訓練が最優先で行われていたが、ジェイクには自分がやりたいことを優先させた。
彼女は3歳になったジェイクが通い始めた発達障害時のための特別支援クラスを、数カ月で辞めさせてしまうのだが、それは、こんなことがきっかけだった。ジェイクは、お気に入りのアルファベットカードを毎日持って学校に行っていた。それを見た担任の先生から、彼は今後も文字を読み書きできるようにはならないから、カードを持たせても意味がないということを言われたのだ。
なぜ学校は、彼の興味があること、できることに着目してくれないのか。まだ3歳にしかならない子どもの可能性をなぜ完全にシャットアウトしようとするのか。そう考えた彼女は、「子どものことに関するプロのアドバイスに逆らうということは、親として非常な恐怖心をともなう選択です」としながらも、翌日から、スクールバスに息子を乗せるのをやめた。この時の気持ちを彼女はこう語っている。「ジェイクの可能性を―それが何であろうとも―フルに引き出すために、必要なことは何だってやる。そう心に決めたのです」
そして、宇宙や星に興味を示し始めたジェイクを、ある日、近くの大学のプラネタリウムで行われる講義に連れていった。そこで、教授が出した質問に対して、ジェイクが手を挙げて的確に答えてしまったという。これが、彼が生まれて初めて人と交わした、会話らしい会話だったというから驚きだ。
「子どもの好きなこと、得意なことを修正しようとせずに褒めてやることは、(その得意分野がいわゆる将来的な成功とは結びつきにくい場合は特に)崖から飛び降りるほどの勇気を必要とします。少なくともわたしはそうでした。それでも子どもを本当に羽ばたかせるためには、信念と勇気を持たなくてはなりません」
あとがきに書かれているこの言葉から、これまで彼女が、どれだけ考え、悩み、闘ってきたかがわかる。自閉症児だからといって、必ずしも何らかの天才的な才能を持っているわけではないのだが、ジェイクの場合、もし彼女が一般的な自閉症児の教育プログラムに従っていたら、才能は開花しなかったかもしれない。
この本を読むと、子育てにおいて、ブレない軸を持っておくことが、どれほど大切であるかということに気づかされる。
文=相馬由子
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