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双子のデータベース、さまざまな研究で活躍
2012年 11月 6日 13:27 JST
原文(英語)
【ストックホルム】医学の最大の難題の一つは、生まれつきのものとそうでないものを区別することだ。これが双子のデータの宝庫であるスウェーデン・ストックホルムの研究所に世界中の研究者からデータの依頼が集まる理由だ。研究者は認知症の原因を調べたり、金融分野のリスクテーキングといった経済的行動の理解を深めたりする目的で、データを依頼している。
スウェーデン双子レジストリーのLichtenstein博士
50年前に設立された「スウェーデン双子レジストリー」には、10万組近くの双子の出生データ、医療記録、その他の情報があり、この種の情報源としては世界最大かつ最も古いと考えられている。このレジストリーのデータからはがん、ぜんそく、家族関係、それにメンタルヘルスに関するさまざまな疑問について検証する500本以上の論文が生まれている。初期の論文の中には喫煙と肺がんとの関連を示す貴重な証拠を提示するものがあったほか、1950年代に広く信じられていたいわゆる冷蔵庫マザー説(母親が感情的に冷淡であることが子どもの自閉症の原因だとする説)を排除する一助になったものもあった。
一卵性双生児は全く同じ遺伝子を共有している。つまり、ある病気が完全に遺伝子由来であれば、双子の両方が同じ発病リスクを持つはずだ。しかし、通常は遺伝子と環境的な要因の両方が影響を及ぼす。最近の研究によると、一卵性双生児の片方が認知症の場合、もう一方がこの種の認知障害を発症する確率はおよそ50%だということが分かった。これは遺伝子が認知症の原因の一部でしかないことを示唆している。これと対照的に、二卵性双生児やその他の一卵性でないきょうだいの1人が認知症の場合、もう1人が認知症を発症する確率はおよそ25%だという。二卵性双生児やその他の一卵性でないきょうだいはおよそ半分の遺伝子を共有する。
このレジストリーの責任者で認知症の研究に取り組んでいるPaul Lichtenstein博士は、双子の研究によって「われわれがこうあるのはなぜなのか、生まれつきなのかそうではないのか、という永遠の疑問」を追究することができると指摘した。このレジストリーはカロリンスカ研究所医学疫学・生物統計学の部門内に設置されており、世界中の科学者からデータベースの利用を求める申請書を受け取っている。こういった科学者の中には、現在注目度の高い遺伝子解析の分野や、遺伝子が環境的な要因によってどれほど変わり得るかを研究するエピジェネティクスの分野の人もいる。双子のレジストリーは世界中で増えており、アジアの何カ国かには比較的新しいレジストリーも存在する。
スウェーデン双子レジストリーは基礎的な医療情報のほか、約4万5000人の双子のDNAサンプルを集め、バイオバンク冷凍庫で保存している。レジストリーの研究担当責任者、Patrik Magnusson氏によると、これらのサンプルは現在、双子間の特定の遺伝的変異を突き止めるのに用いられている。食事やコーヒーの量といった健康に関する行動や状況の原因になる可能性のある遺伝的変異についてだ。遺伝子解析の技術が進歩し、価格が手頃になってきているのを背景に、研究者らは双子の全ゲノムが簡単に解析され、病気の遺伝的要因の新たな特定が進む日がいつか訪れるのではないかと期待している。
このレジストリーには医学分野以外の研究者も引き寄せられている。ニューヨーク大学実験社会科学センターの経済学者、デービッド・セサリニ博士やストックホルム商科大学のMagnus Johannesson氏らはデータベースを使い、遺伝子が人々の公平性や金融分野のリスクテーキングの判断に影響をもたらすかを調べている。
このレジストリーは1950年代終わりに設立された。スウェーデンのたばこ業界から資金を得た同国の研究者2人が、当時結論が出ていなかった、喫煙が健康に悪いことを示す証拠について研究しようとしたのがきっかけだった。研究の目標は一部の人が遺伝的にがんになりやすいのか、それともたばこの煙に含まれる化学物質によって健康に影響が出る可能性があるのかについて明らかにすることだった。喫煙習慣に違いがあるにもかかわらず、双子ががんを発症する確率が同等であれば、喫煙に発がん性がないことが示されるはずだった。
2人の研究者には研究対象にできる膨大なデータがあった。スウェーデンで生まれた双子は町の教会区の牧師によって記録されており、その記録の最古のものは1800年代にさかのぼる。この記録は、住民の基本的な健康情報の記録とともに、スウェーデンや欧州のその他数カ国で現代まで取り続けられている。2人の研究者は1886年から1925年の間に生まれた約1万1000組みの双子を追跡し、喫煙習慣と健康状態について尋ねた。この結果、喫煙が実際にがん発症リスクを高めることが示されたため、プロジェクトの資金提供者は資金を引き揚げたのだという。
その後、1980年代初めに米国の心理学者、ナンシー・ペダーセン氏が出現したことで、このレジストリーへの関心は再び高まった。同氏は養子に出されて別々に育てられた一卵性双生児の差に関する研究に着手していた。同氏は現在、双子の認知症について研究している。Lichtenstein博士によると、当初の研究結果には驚くべきものがあったという。ある研究で、同博士のチームは人が配偶者の死、失業、それに犯罪の被害者になるといった困難な出来事に遭遇するかどうかにおいて、遺伝的特徴が重要な役割を果たしていることを突き止めた。
人間の遺伝的性質は知性、才能、それにどれほど社会的かといった特徴に影響を与える。これがめぐりめぐってその人の社会経済的立場や生活環境に影響を与える、と同博士は指摘する。社会学者でもある同博士は以前は社会階級や教育といった環境的な要因が遺伝的性質よりもずっと重要だと考えていた。この研究結果は、困難な出来事に遭遇する人がそういった出来事を引き起こしていることを意味するのではなく、状況が幸運ないし不運の選択のみに基づいているわけではないことを意味しているのだという。同博士は「われわれはある意味、われわれ自身の環境を形作っているのだ」と話した。
記者: Shirley S. Wang
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