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就労困難で相談増加 発達障害、社会の理解を
大人の発達障害者が就労の困難に直面している。診断を受けないまま社会に出て、職場に適応できなかったり、就職できなかったりする例も多い。周囲の配慮があれば能力を発揮できる人も多く、社会全体で理解を深める必要がある。
厚生労働省のまとめでは、全国の発達障害者支援センターに相談した19歳以上は2011年度に2万1242人で、05年度の2932人から大幅に増えている。同省によると「職場で厳しい評価を受けた結果、自分が発達障害なのではと疑い、受診する人も多い」という。
大阪府で発達障害者の当事者会を主宰する石橋尋志さん(33)は、会社での営業成績はトップクラスだった。しかし、書類を書き間違えたり顧客との約束を忘れたりするミスで「社会人としての自覚がない」と叱責され続けた。26歳でADHDの診断を受け、「駄目な人間だと思い込んでいたが、疑問が解けた」と振り返る。
診断を受けないまま、就労に悩む人もいる。
「とちぎ若者サポートステーション」(宇都宮市)は、ひきこもりの若者らの就労を支援している。07年度から10年度の利用者で、未診断の発達障害とみられる人は約120人。中野謙作センター長は「多くの若者が障害に気づかぬまま苦労している」と話す。
発達障害は、障害の軽重や表れ方に個人差があり、気づかないまま大人になることも多い。社会では、「風変わり」「努力不足」といった人物評に、障害の特性が埋もれがちだ。
大人になってからの診断は難しさが伴う。成育歴の検証も必要だが学校の成績表などの記録が残っていないことも多い。的確に診断できる経験豊富な専門医の不足を指摘する声もある。
さらに、診断を受けたとしても、就職で十分な支援を受けられるとは限らない。
法律に基づき、企業は一定の障害者を雇用しなければならない。この枠での就職には障害者手帳の取得が必要になるが、発達障害者に独自の手帳制度はない。
身体障害者には「身体障害者手帳」、知的障害者は「療育手帳」、精神障害者は「精神障害者保健福祉手帳」がある。例えば、知的な遅れのないアスペルガー症候群の場合でも、精神障害者保健福祉手帳を申請できるが、取得に消極的な人もいる。障害者雇用枠で採用されると、一定の配慮の中で仕事ができるものの、昇進や待遇が満足行かないものになる可能性がある。
このため、障害を隠して仕事や就職活動をしている人もいる。ある精神科医は「今の仕事を続けたいなら、周囲に言わないように助言している」と明かす。
発達障害者には記憶力にたけ、数字や文字に強い人も多い。創造的な仕事で成功を収めている人もいる。
川崎医療福祉大の佐々木正美・特任教授は「苦手分野をフォローするなどの配慮があれば十分に能力を発揮できる人は多い。企業の管理職研修などで発達障害について学ぶ機会を増やしていくべきだ」と提言する。
社会に適応するため、発達障害者がグループを作りコミュニケーションを学ぶ活動も広がっている。こうした動きと連動し、国の支援の充実を図るとともに、社会がどう受け入れていくか考える時期に来ている。(生活情報部 赤池泰斗)
発達障害
脳機能の障害で、幼少期に発現するとされる。集中力が続きにくい注意欠陥・多動性障害(ADHD)、読み書きや計算が難しい学習障害(LD)、対人関係などに障害を抱えるアスペルガー症候群などの広汎性発達障害がある。障害が重複する場合もある。
(12年11月8日 読売)
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