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憂楽帳:絵が大好き
毎日新聞 2012年12月03日 西部夕刊
初めて描かせた時は大きな画用紙の真ん中にほんの数センチの顔、顔から伸びる線のような手足。そんな絵だった。
前野勢津子さん(64)は4年前、10代から40代までの知的障害がある10人ほどに絵を教え始めた。自閉症やダウン症、症状はいろいろだが、共通しているのは絵に自信が無いこと。絵本の模倣から始めた。週1回、午前9時半から午後3時までだが、5分ほどで集中力が途切れ、他の遊びをしなければならなかった。「もう無理、やめようか」と思うこともあった。2年が過ぎたころ、変化が見え始めた。水彩絵の具の扱いにも慣れ、絵が大きくなり、長時間続けられるようになった。花や野菜の写生を始めた。絵本と違い立体だ。「よく見て、自分らしく表現して」。根を詰め指導していると「前野さん大好き」と言ってくることがある。頭が混乱し、困っているサインだという。
昔は緑なら緑一色、赤なら赤だけだったというが、今は白菜は白から濃い緑まで、鶏頭の花は赤から紫へときれいに表現されている。「絵が大好き」というようになった生徒たちの進歩に、前野さんは目を細める。【隈田高文】
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