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余録:なぜ人は方言をしゃべるのか
なぜ人は方言をしゃべるのか。「共通言語教育で20世紀中に方言は消える」と言われたこともあったそうだが、東北弁も名古屋弁も九州弁も絶滅しそうにない。関西弁に至っては21世紀になった今もお笑い番組などで隆盛を極めている▲では、自閉症の子が方言をしゃべらないのはなぜか。関係者の間で長らく「謎」とされていたことを松本敏治弘前大教授らが調査した。たしかに自閉症などの発達障害児は方言をしゃべらない確率が高い、ということが立証された▲(1)方言をしゃべっているのだが、発達障害特有の発音や音韻が方言らしく聞こえない(2)方言の音韻や音調の特徴が障害児の情報処理能力を超えている(3)「〜んだなし」「〜だがや」「〜ばい」など方言独特の終助詞を理解できない(4)メディアの影響、など諸説ある▲松本教授らが推すのは社会的機能不全説だ。方言には、仲間への帰属意識、他集団との差異化を表す機能、緊張を緩和する機能などがあり、社会性にハンディのある発達障害児はこうした方言の機能を理解し使うことが苦手というのだ▲年齢による濃淡もあり、一般的には中学生のころが最も方言を使うという。家族より同世代の仲間への帰属意識が旺盛になる時期だ。商売や町内会の活動を通して地域との関係が濃密になる35歳前後も多いらしい▲ひきこもり、孤独死、児童虐待の要因に社会的孤立があることを思うと、方言はなんとも貴重な存在だ。かつて標準語を身につけさせるため、先生が方言を話す子の首に罰として「方言札」を下げた地域もあったという。方言の魅力はもっと評価されるべきである。
(毎日新聞 2013年04月21日 00時12分)
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